A. ギヤーオイルは大きく分けると「産業用」と「自動車用」に分類されます。
最も過酷な条件で使用されるのは自動車用のギヤーオイルで、開発には産業用とは比べものにならないほど高度な技術力が要求されます。自動車用のギヤー油は乗用車をはじめトラック、バス、建設機械、農業機械などの歯車および軸受の潤滑油として幅広く使用されています。
自動車用ギヤー油の使用される箇所は下記のとおりです。
特に最近の車では高性能、高出力化が進んでおりますので、ギヤーオイルの要求性能も年々高い数値となっています。さらに、オイル量を少なくする傾向も出てきました。
ギヤーオイルの代表的な役割は歯車(ギヤー)を保護することです。この性能を発揮するためにはベースオイルだけでは役不足ですので数々の添加剤が加えられます。
以上の基本性能を維持すると同時に下記のとおり、ギヤーオイルにも使用環境温度に応じた適切な粘度を選定しなければなりません。
ギヤーオイルの粘度分類は下記のとおりです。(80と85は1998年7月に新たに追加、110と190は2005年に追加)
「70W」 「75W」 「80W」 「85W」 「80」 「85」 「90」 「110」「140」「190」 「250」
上記の粘度数値はシングルグレードの場合です。最近ではマルチグレード化が進み、これらの数値をハイフンでつなげたマルチタイプのギヤーオイルが主流となっています。代表的な例では、「75W-90」「80W-90」「85W-140」などです。
歯車の保護、軸受けの損傷および騒音防止には高粘度油(85W-140)を使用する方が有利ですが、伝達効率の低下や冷却効率、給油性などのデメリットもありますので、使用箇所に応じた適切な粘度のギヤーオイルを使用してください。
A. API(アメリカ石油協会)が定めた自動車用ギヤーオイルの規格で、「GL」とはGear Lubricant(ギヤー用潤滑油)の頭文字をとったものです。
ハイフンでつながれた数字が1〜5まで、使用する箇所(ミッションやデフ)、使用条件に応じて対応する番号が指定されています。数字が大きくなるに従って高性能となります。LSDを装着した、かなり過酷な条件で使用されるデファレンシャルには「GL-5」。
マニュアルトランスミッションには「GL-3」または「GL-4」を指定する車両メーカーが多く、FF車のトランスアクスル(ミッション・デフ共用潤滑)には「GL-5」を使用します。すでに「GL-1」や「GL-2」は過去のものとなっており、販売されているケースはほとんどありません。
ギヤーオイルが使用される箇所は、車のマニュアルミッション(ATを除く)とデファレンシャル及びステアリングギヤボックス(パワーステアリングを除く)です。
参考までに、「75W-90」、「80W-90」や「85W-140」などのオイルが良く販売されています。
では代表的な車種別、使用箇所別の粘度グレードと「GLクラス」を解説します。
ここで注目しなければならないのは、FF車のミッションとデフは1種類のオイルで共用潤滑していることです。これはFF車の場合、コンパクトな設計をしなければならない制約から生まれた必然的なもので、トランスミッションとデファレンシャル機構が一つのケースの中に納められており、FR車のように別々のオイルを使用することができないのです。この方式を「トランスアクスル」と呼びます。一般的には「GL-4」が指定されます。
現在ではマルチグレード化が進み、シングルグレードのギヤーオイルはほとんど使用されていません。参考までに、シングルグレードのギヤオイルでは「80W」「90」「140」などがあります。
GLクラス(番号)の選択については、車両メーカーの指定する番号に従ってください。
A. ノンスリップデファレンシャルは特殊な構造をしており、たいへん過酷な条件下で使用されます。穏やかな運転や直線だけの運転なら心配ありませんが、激しいコーナリングを伴うサーキット走行やスポーツ走行時には、デフのギヤーに強いトルク(力)がかかり、あまり粘度の低いオイルではギヤーにキズが付いたり、最悪の場合は発熱を起こし焼き付いたり、破損という重大トラブルが発生します。
特に一般的な多板プレート式はプレート間の発熱も多く、オイルはデフの中でたいへん過酷に使用されます。また、多板式LSDは潤滑理論では矛盾の固まりです。プレッシャープレートの間ではトルクを伝達しながら、摩耗を防止しなければならないことに加え、トルク伝達時には回転差があるため、摩擦熱が発生します。高性能 LSDオイルを開発するにはオイルメーカーの高度な技術力が必要です。
このため、通常のギヤーオイルに使用される粘度80W-90より高い粘度設定を採用した「85W-140」が使用される場合が多いのです。低温側粘度(数字にWが付いた方)の幅より高温側粘度(ハイフンでつながれた右側の数字)の増加の幅を多くしているのは、高温耐久性をより持たせるためです。
ギヤーオイルの命は「せん断安定性」といわれています。「せん断」とは、強い力で物が引きち切られることを意味します。最近のデフにはハイポイドギヤーが使用されていますので、せん断安定性はさらに要求されるようになりました。
以上の理由から、プレート式ノンスリップデファレンシャル装着車には指定された粘度グレードのオイル「85W-140」を使用し、80W-90などに交換することはお奨めできません。
ここで注意しなければならないのが品質を表わす「GL-5」等の記号。デフには常に強いトルクがかかっており、さらにノンスリが入っていればさらに条件は過酷になります。「GL-5」より穏やかな条件で使用される「GL-4」や「GL-3」に交換するのは避けてください。
最近普及しはじめた「トルセン」や「ヘリカル」のノンスリは85W-140などの高い粘度のギヤーオイルを要求していません。マニュアルミッションに使用される80W-90などの一般的なギヤボックスオイルの粘度が指定されていますので注意してください。
また、最近ではプレート式LSD装着でも高粘度油「85W-140」を指定しない車種もありますので注意してください。
A. トルセンデフに特殊な粘度のギヤーオイルは必要ありません。ごく普通に使用されるギヤーオイルの粘度「75W-90」や「80W-90」がメーカーから指定されています。ノンスリだからとプレート式に使用するような粘度の高い「85W-140」は必要ないのです。
粘度の選定はご自分の車に付いてくる「取り扱い説明書」に従ってください。参考までに、トヨタでは「85W-90」を指定している場合が多くみられます。
ここで重要なのはギヤーオイルの品質を表わす記号「GL-5」を必ず選ばなければならないことです。高負荷時に高いトルクがかかるため「GL-5」より穏やかな使用条件を想定している「GL-4」や「GL-3」の使用は避けてください。
トルセンとは「Torque Sensitive」(トルクに敏感)という意味の英語を固有名詞にアレンジした登録商標です。別名では「トルク感応式」と呼ばれている新時代のノンスリップデファレンシャルで、最近のスポーツタイプの車両に搭載されはじめました。トルセンは今まで最も普及していた「プレート式」の原理とまったく異なった作動をします。
プレート式はトラクションを失ったタイヤの空転を防止しますが、トルセンは高グリップのタイヤへより多くのトルクを分配します。プレート式はトラクションを失ったホイールが空転したり、内輪差が発生して初めて作動を開始するのに対して、トルセンは常に両輪のトルクを監視しながら作動していますので、タイムラグ(作動の開始遅れ)がまったくありません。したがって、理論的にはより優れた方式といえます。
ノンスリはコーナリング中に大きな働きをするわけですが、トルセンはたとえ直進中であっても両輪のトルク配分を常に適正に補正しますので、大出力の後輪駆動車の直進安定性に大きく貢献します。
トルセンは最近になって普及したため、あまり一般的ではありません。理由は複雑なカーブを描くギヤー歯の加工に高度な技術力が必要だったからです。しかし、この難問も我が国の高度な工作技術で解決されています。
1995年にトヨタ自動車はこのトルセン式に似た「ヘリカル LSD」を新たに開発、新型カローラに搭載しました。この例を見てもおわかりのとおり、今後のLSDの方向性は「トルク感応式」に移行するかも知れません。
A. FF車はFR車と基本的な構造の違いがあり、駆動系はすべてフロント部分に集中しています。
トランスミッションはエンジンのすぐとなり又は下にあり、ミッションとデファレンシャルが一体構造になっており、一種類のギヤーオイルでミッションとデフを潤滑しています。この方式を「トランスアクスル」と呼びます。
したがって、ミッションとデフを1種類のオイルで潤滑しなければならないFF車特有の制約が出てきたわけです。
ミッションとデフを保護するわけですから一般的なギヤーオイルの粘度80W-90の使用が考えられますが、あまりに粘度が高いとトルクステア(コーナリング中に急にアクセルを開けるとステアリングを取られる)が強く現れたり、ギヤーの入り具合が変化する、などのデメリットがあります。したがって、シフトフィーリング向上の見地から若干粘度を下げたギヤーオイルが使用されています。代表的な粘度は「75W-90」です。
最近ではFF車のスポーツカーも販売され、オプションでノンスリップデフも組込可能です。この場合はメーカー指定の粘度を守ることをお奨めします。
A. 一般的な車両でギヤーオイルが使用される箇所はマニュアル・トランスミッションとデファレンシャルです。どちらもエンジンオイルほどオイルを傷める要素はありません。具体的には・・・・
以上の理由から、エンジンオイルに比較すればはるかに長く使用することが可能です。交換基準は「2年毎」などと車に付いている取扱い説明書に記載されていますので参考にしてください。通常の走行条件であれば、車検整備の時に交換していれば問題ないでしょう。
交換するには車をリフトで上げたり、専用の工具やオイルポンプも必要になりますので、ご自分での作業は避け、修理工場やディーラーの整備工場に依頼することをお奨めします。
ノンスリップデフ装着車で一般的なプレート式のノンスリは激しい運転を繰り返すと、オイルの消耗も早くなります。スポーツ走行の機会が多かったり、サーキット走行も加える方はデフオイルの交換を早めに行ってください。交換基準は「3,000キロ」や「5,000キロ」を目安にすると良いでしょう。
また、摩擦材とプレッシャープレートの分解点検も必要です。スポーツ走行の機会が多いドライバーは定期的なオイル交換とLSDのメンテナンスが必要です。
A. ギヤーオイルはマニュアルトランスミッションとデフレンシャルに使用されています。
オイルの品質(GL-3、GL-4ないしはGL-5)と粘度グレード(80W-90等)は車についている取扱い説明書に従って新しいオイルと必要な量を準備してください。
ミッションやデフのオイル交換には、専用のポンプも必要となり、ご自分ではたいへん面倒な場合もあります。ここでは注意事項を述べます。
まず、ミッション・デフどちらにも「ドレインボルト」と新油を注入するための2つのボルトが付いています。ドレインボルトはミッションケースの下側に、注入口のボルトはケースの上の方に付いていますので、まずボルトの位置を確認してください。
ここで大切な手順は「上のボルト」(注入口)からゆるめ、上のボルトがゆるむことを確認してから、下のドレインボルトをゆるめることです。これらのボルトは必要以上に固く締められている場合がほとんどで、なかなかゆるまない場合が多いからです。
もし、下のドレインボルトからゆるめてしまうと、オイルが重力により流れ出てしまいます。この状態のまま上のボルトをゆるめようと思ってもはずれなかった場合は、オイルを継ぎ足すことができず、手遅れになってしまいます。オイルなしで走行すればギヤーに損傷を与えてしまいます。
ギヤーオイルはエンジンオイルに比べたいへん粘度の高い(ドロドロしている)オイルですので走行後、少しオイルを冷ましてから作業をすると抜き取りが楽にできます。
ドレインボルトの内部側先端は強力な磁石になっていますので、古いオイルを抜き取った時にはドレインボルト内部に付いている金属粉を注意して観察してください。この時の金属粉はウエスで残らずふき取ってください。
細かい金属粉(砂鉄状)の場合はまったく心配ありませんが、もし金属の欠片がついている場合はギヤー等の破損が考えられます。古いオイルを抜き取ったらドレインを締め、注入口から新油を専用ポンプで圧送します。吸入口から新油があふれた時が適正量ですので、ここで注入を止めてください。ケースからあふれたオイルをウエスでふき取り注入口のボルトを締めてください。
ドレインボルトの磁石に金属片を発見した場合は修理工場に相談してください。ボルトの締めすぎには注意してください。あまり強く締める必要はありません。オイル交換後の古いオイルは環境保護のため適切に処理してください。新油注入後にしばらく走行してから、再度オイル漏れの有無を点検してください。
A. ビスカス内部には専用のオイルが指定されておりますので、一般市販のギヤーオイルを使用することはできません。
ビスカスとは正式には「ビスカス・カップリング」(Viscous Coupling)と呼ばれ、フルタイム4WD車の普及により発明された差動装置です。ここではカップリングの中に充填されているオイルについて解説します。
ビスカスカップリング内のオイルは「シリコン油」で、粘度は一般のギヤーオイルとは比較にならないほど高いものです。「Viscous = 粘着性」のネーミングの由来はこのオイルの高粘度にあります。ビスカス内部に使用されるオイルの粘度は冷えた時の「水飴」のように硬いのです。
当初は4WD車の前輪と後輪の回転差を吸収するセンターデフに使用され、最近ではLSD(Limited Slip Diffarential)としても利用が拡大されています。
原理は円筒状のハウジングの中に丸い穴を開けたアウタープレートと、スリットの刻まれたインナープレート同士をわずかな隙間を設けて交互に重ね、その間を専用オイルで満たします。
ハウジングとインナーシャフトに回転差が出ると、プレート間のオイルの粘性によって差動回転数に応じたトルクが伝達されます。そして、差動を繰り返しているうちに内部の温度が上昇すると、オイルの膨張した圧力によりプレートを直接押し付け、より伝達トルクを多くすることができます。
ビスカスのメリットとしては
反対にデメリットは
このビスカス方式は別名「回転数感応式」と呼ばれます。
以上の解説はビスカスカップリングの中身のオイルのことで、デフケース内に使用されるカップリング外側のオイルは通常のギヤーオイルを使用してください。この場合、ギヤーオイルはメーカーの指定する品質と粘度グレードを使用してください。
A. エンジンオイルはギヤーオイルとしても使用できるからです。
エンジンオイルはギヤーオイルの品質を規定する「GL-3」に相当しますので、マニュアルミッションに使用できるわけです。二輪車の場合は特にこの傾向が強く、ほとんどミッションにエンジンオイルを指定しています。
HONDAはもともと二輪メーカーから四輪に進出しましたので、バイクのノウハウが車にも繁栄されているわけです。HONDAが指定するMT車のオイルは「SEクラス 10W-30」が多かったのですが、最近では純正の「MTF-Ⅱ」に進化しています。同社は「他社のマネをしない」基本姿勢が今でも伝統的に守られています。したがって、独特の機構を取り入れたり他社とは違う考え方を強く打出してきますのでたいへん特色のある会社です。
ミッションにエンジンオイルを指定しているHONDA車に一般に使用されるギヤーオイル「75W-90」や「80W-90」に交換すると入りが悪化したり、シフトがたいへん重くなることがありますので注意してください。
A. ニュートンの原理とは「物質は重力の影響を受ける」ということです。
通常のオイルは回転物(ギヤーの歯など)に付着していても、遠心力により飛ばされてしまいます。非ニュートン原理を応用したオイルは遠心力の作用を受けてもオイルが飛ばされることなく、回転物の中心に「からみつく」性質をもっています。したがって、高回転域の場合でも「油幕切れ」を起こさない性能を発揮します。
市場に出回っている製品には「非ニュートン原理」を応用した「エンジンオイル」も市販されています。このオイルは通常の製品に非ニュートン原理を発揮する特殊な添加剤を加えることにより製品化が可能です。
エンジンオイルの潤滑面で判断した場合、クランクシャフトやカムシャフトなどの高速回転物に効果を期待できますが、反面オイルがからみつくことにより粘度抵抗が増加してパワーロスにつながります。ギヤーオイルとして考えた場合には効果が見られます。なぜなら、トランスミッションやデファレンシャルのオイル供給は「オイルバス式」と呼ばれるもので、エンジンオイルのように「オイルポンプ」により油圧をかけて供給されているわけではないのです。
オイルバス式(ギヤーの歯がお風呂に浸かっている状態)では、急発進や急停止の時に前後に発生する「G」とコーナーリング中の「左右G」によりオイルの片寄りが発生します。
非ニュートンを採用すると、回転物にオイルが絡み付きますので、潤滑不良を未然に防止することができます。
これらのオイルは通常のオイルの性能に「非ニュートン原理」を加えたものですので、基本性能は元になる製品により左右されます。
元のオイルの性能が良くなければせっかくの「非ニュートン原理」も充分に発揮できませんので、使用する場合は信頼できるメーカーの製品を選んでください。
A. ギヤーオイルのAPIサービス分類では「GL-6」が最高の規格として制定されていました。しかし、「GL-6」はすでに廃止規格となっておりますので、新たにGL-6を取得することはできません。GL-6が廃止された原因は、この規格を取得する際に使用する試験部品の供給が途絶えたことにあります。
GL-6はピニオンオフセット量の非常に大きいハイポイドギヤーを使用する箇所(デファレンシャルなど)に使用するためのオイルで、GL-5を上回る性能を要求されています。
市場ではGL-6の規格が生きていた時代に合格したオイルが今でも市販されており、各石油元売や輸入ブランドのオイルメーカーが販売を継続している場合があります。
GL-6のオイルを購入する場合には注意が必要です。上記のようにすでに規格そのものが廃止されていますので、使用する場合には直接メーカーなどに問い合わせすることをお奨めします。
あえてGL-6を使用しなくてもGL-5で充分な性能もありますので、レースなどの特殊用途以外の場合はGL-5をご使用ください 。
A. 最近「ボレート系」のギヤーオイルが販売されています。ボレート(BORATE)とはボロンと窒素を反応させたもので、「チッ化ホウ素」ともよばれ、固体潤滑剤の一種です。
今までのギヤーオイルはオイルに添加されたSP系添加剤(イオウとリンの化合物)が金属と反応しながら皮膜を形成してギヤーの歯を保護します。この皮膜はある程度の時間を経過すると消耗してしまいます。
しかし、この皮膜は次から次へと新しいものに置き換えられて保護膜を形成します。この時、ごくわずかの金属分も化学反応の時に消耗します。
通常のギヤーオイルはSP系添加剤による保護皮膜「生成」と「消耗」が繰り返されているわけですので、定期的なオイル交換が必要でした。ボレート系ギヤーオイルは潤滑理論そのものが違います。
ボロンは固体のため原子半径が大きく(球状)、金属同士の接触部分に入り込み「コロ」の原理でスベリを良くします。したがって、次のようなメリットが生まれます。
しかし、メリットだけではなく「合成油に溶けにくい」、「油中に安定的に分散させるのが難しい」ことや、「低温や高温時にオイルが濁る」などの欠点も持っています。
ボロン系ギヤーオイルはまだまだ一般的なオイルではありませんので、特殊品と考えたほうが賢明です。耐久レースなどに使用すると良いでしょう。また、プレート式のノンスリに使用すると「コロの原理」が災いしてまったくトルクを伝えなくなってしまいますので注意してください。
A. 高性能ギヤーオイルの中に「モリブデン」を配合したものが販売されています。また、後からモリブデンをオイルに添加する「添加剤」タイプのものもあります。
モリブデン本体は固体潤滑の役目を持った潤滑剤の一種で、極低温から高温(400゚C 程度)まで低摩擦を示し、理論上の摩擦係数は「0.04」と言われています。摩擦抵抗を減らし耐磨耗性に対しても高い性能を発揮します。
しかし、これをオイルに添加しても沈殿してしまい、期待した効果は発揮されません。そこで考え出されたのが油中に安定的に分散させる「分散技術」。モリブデンの粒子をオイルの下に沈殿することなく安定して存在させることが可能となりました。このモリブデンを「有機モリブデン」と呼んでいます。
そして、現代では「分散型」からより進化した「溶解型」の有機モリブデンも登場していますので、沈殿することは過去のものとなりました。
潤滑理論を紐解きますと、モリブデンの粒子がオイルとともに金属同士の触れ合う部分に入り込み、ちょうどボールベアリングのごとく「コロ」の役目を発揮します。つまり摩擦抵抗を少なくして、よりすべりを良くする効果が期待できます。
また、モリブデンは境界面に特殊な膜を生成して摩耗防止に大きな効果を発揮します。そして高い酸化防止性能も発揮しますので、オイル交換の延長にも寄与します。モリブデン入りのギヤーオイルは以上の性能を発揮しますが、あまりにすべりが良いことで、プレート式のノンスリを利用したデフに使用すると、ノンスリ効果が少なくなったり、フィーリングが変化するなどのデメリットが出る場合があります。
マニュアルミッションに使用する場合であれば特に心配する点はありません。走行キロも多くデフのバックラッシュが出ている車に使用して、音が消えたなどの良い例もあります。
モリブデンは油中に安定的に分散させるには高度な技術力がオイルメーカーに要求されますので、信頼できるメーカーの製品を選ぶと良いでしょう。また、あるバイクメーカーではモリブデンを使用しないように指導している場合もあります。
これは、すべりが良くなることで湿式クラッチ(油中でクラッチがつながる)がすべってしまうからです。
A. ギヤーオイルの仲間には水分離性の優れたオイルもありますが、最近の自動車用ギヤーオイルは水と仲良くする(親和性)品質設計を採用していますので、水分離性の優れたギヤーオイルは設計思想が古いか?または、特殊用途(オフロード走行車両)のオイルと推測します。
水分離の設計は簡単にできますが、元々の発想は屋外で使用される場合(雨水が入り込む)を想定しています。特に船舶用や工業用のギヤーオイルにはこの傾向が見られます。
使用環境が悪く、水が入り込んでも「水と油が完全分離」すれば、水は下部に沈殿、オイルは上に浮いた状態となります。ここで、ドレインを切れば水だけを取り除くことができるのです。自動車用のギヤーオイルでもこの設計思想を取り入れているオイルメーカーもありますが、特殊油と解釈してください。
一般的なギヤーオイルはたとえ水が進入しても、オイルと混ざり合い「乳化」(エマルション)するように配慮されています。エマルションは安定乳化の状態ですから、水があるもののオイルと仲良くなっており、ギヤー歯の潤滑性能を維持しようとしてあります。
水分離が良いと水に浸かった場所の金属がすぐ錆びてしまいますので、エマルションとなるオイルの方がギヤー歯を錆びさせる程度は少なくなります。
水分離の高いオイルを使うのは、ユーザーの判断に委ねられますがオイル各社から販売されているケースはたいへん少ないのが現状です。
ラリーレイドやオフロード走行競技などには有効かも知れませんが、水抜きをきちんと行うメンテナンス作業が増加します。
水分離性の高いギヤーオイルを買うものたいへんです。カーショップに陳列されている各社のオイルの説明書きを良く読むことです。水分離に優れたオイルには必ずこのことが記載されいるはずです。
A. ゲトラク指定のミッションオイルは「ATF」に良く似ていますが、別物と判断してください。一般に市販されているATFに交換することはお奨めできません。車両メーカー純正油で交換してください。
ゲトラクはドイツのトランスミッションメーカーで高性能なミッションを提供しています。現在、6速ミッションにTOYOTAとNISSANから純正油が供給されています。TOYOTAは「スープラ」に、日産は「34 GT-R」にゲトラク搭載車があります。
ゲトラクの指定するオイルは色も赤く、粘度も柔らかいため、ATFと思われがちですが、このオイルの開発者から得た情報ではATFに似ているが「別物」との回答がありました。
ゲトラク社と共同開発した某石油メーカーは当時のATF(DEXRON-Ⅱの時代)から開発をスタート、ゲトラク社の承認を得るまでには多くの苦労があったようです。ゲトラク社指定のオイルが完成すると、その開発石油メーカーはATFを基本に改良したため、GM社に対してDEXRONの認定を申請したところ、承認されたのです。この点が話しをややこしくする原因です。
簡単に理解するには、ATFの添加剤システムをゲトラク社の要求値に合うように配合変更、改良したオイルです。よって、一般市販のATF(DEXRON)とは別のオイルと理解してください。なお、車両メーカー関係者者から得た情報では純正油そのものをドイツから輸入しているそうです。
A. ギヤーオイルの品質を判断する記号として「GL-4」などが親しまれております。この品質基準を定めていたAPIは永年新しい規格を発表しておりません。
しかし、1999年になると「GL-4 Upgrade」を提案しました。このオイルは全世界を対象にした「貨物自動車のシンクロメッシュ機構付き」のマニュアルトランスミッションオイルです。
最近のエンジンオイルは省燃費性能を強く全面に押し出しています。ギヤーオイルもこの思想を取り入れる動きが出ていると同時に「高温耐久性」を要求しています。また、トランスミッションをコンパクトに設計、小型・軽量化の実現も目の前に迫っています。
ミッションが小型になれば必然的にオイル搭載量も減り、オイルは過酷な使用条件下に置かれますので、鉱油よりも高性能を発揮する合成油採用の動きが出ています。よって、今後のギヤーオイルは高温耐久性に有利な「全合成油」に移行してゆくと予測できます。
ヨーロッパではギヤーオイルの最低水準を「GL-4」にすることが決定されましたので、「GL-3」規格油の採用はやがて終息するかも知れません。
現在の最新技術はマニュアルミッションの自動化です。いわゆる「セミAT」と呼ばれるミッションです。トランスミッションそのものは従来型の「MT」を使用、人間が操作する替わりに機械がシフトを行います。とうぜんクラッチは存在しますが、人の足で操作する必要はなく、機械が断続を司ります。したがって、「2ペダル」(クラッチペダルがない)になります。
シフトの命令はドライバーがシフトレバー(前後に動かす)やステアリング上に配置された「+」(シフトアップ)「-」(シフトダウン)のスイッチを押すことにより瞬時にシフトを完了します。また、全自動モードを備えているため完全自動化(AT車と同じ)も可能です。我が国の免許制度では「AT免許」で運転することができます。
この「AT車」は燃費の向上を最大の目的にしており、普通のMT車よりも燃費が優れています。エンジンの最大効率回転数(燃費の良い)をコンピューターが判断してイージードライブとスポーツドライブを可能にしていますので、車両メーカー各社から発売される可能性が大です。
また、ギヤーの段数を多くする(6速や7速)ことで、より燃費向上を各自動車メーカーは目指しております。大型トラックのミッションはトルコン式を採用せずに、このシステムに移行する見込みです。この「AT車」のミッションは元々「MT」ですので、特殊なギヤーオイルは必要ありません。
A. APIサービス分類は時代の変遷とともに下表のように変化、進歩してまいりました。
記号 | 具体的な適用 | 規格との対応 |
---|---|---|
GL-1 | 添加剤を含まない純鉱物油。低荷重、低速のスパーギヤー、ヘリカルギヤー、 ウォームギヤー、ベベルギヤーに使用する。 自動車用の潤滑条件を満足させないため、現在はまったく使用されない。 |
|
GL-2 | 速度や荷重がやや過酷な条件下のウォームギヤーやハイポイドギヤを除くその他
のギヤーに使用される。 自動車用の潤滑条件を満足させないため、特殊な場合を 除きほとんど使用されない。 |
|
GL-3 | 硫黄、塩素、りん、亜鉛などの極圧添加剤を加えたオイル。
GL-1 や GL-2 のギヤー油では満足できない場合に使用する。 トランスミッショ ン、ステアリングギヤ、条件の緩やかなデファレンシャル(ハイポイドを除く) に使用される。 |
|
GL-4 | ハイポイドギヤーや極めて過酷な条件下のギヤーに用いる。高速低トルク、低速高トルクに耐える性能が要求される。 デファレンシャル、トランスミッション、ステアリングギヤーに使用される。 |
MIL-L-2105 |
GL-5 | GL-4 よりも過酷な条件下のハイポイドギヤーに使用する。高速低トルク、低速高トルク、高速衝撃荷重に耐える。 特に過酷なデファレンシャルギヤーに使用される。 |
MIL-L-2105B MIL-L-2105C MIL-L-2105D |
GL-6 | GL-5 よりもオフセット量の多いハイポイドギヤーに使用する。高速低トルク、低速高トルク、高速衝撃荷重に耐える。 非常に過酷な条件のデファレンシャルギヤーに使用されるが、規格抹消。 |
FORD ESW-M2C-105A 規格廃止 |