A. ATF とは「Automatic Transmission Fluid」の頭文字をとったもので、自動変速機専用オイルのことです。Fluidとは流動体(液体)のことでオイルとは呼ばずに、フルードと呼ばれていますけれど、成分は正にオイルです。俗称では「トルコン・オイル」(オートマ・オイル)とも呼ばれています。「トルコン」とは Torque Converter のことで、動力を伝達(変換)する装置のことです。原理はオイルを充満させたケース内部をプロペラでかき回せばオイルも回りはじめ、この回ったオイルの回転力を別のプロペラで受ければ動力が伝わるわけです。別名を「流体継手」といいます。この「動力を伝達」する液体のことをすべて「Fluid」と呼びます。
オイル自体はたいへんサラサラした柔らかいもの(粘度が低い)で、エンジンオイルとはまったく違う働きをするために専用に開発された製品です。低温時に固くならず、高温でも極端にサラサラになりにくい「粘度変化」に強いオイルです。
エンジンオイルと間違って使用しないように一般的には「赤」の着色がされています。
ATF の役目はエンジンの動力を伝える「伝達機能」と、ギヤーを保護する「潤滑性」。ギヤーを自動的にシフトするために必要となる「油圧作動」、さらにシフトチェンジをする時に湿式クラッチやバンドブレーキを適当に滑らせる「摩擦特性」、AT から発生する熱を逃がす「冷却性能」などの大切な役割を担っています。
ATF は一種のギヤーオイルともいえますが、特殊オイルと考えてください。
ATF には米国のゼネラルモータースが承認したブランド「DEXRON」(デクスロン)と、フォード社が定めた「MERCON」(マーコン)があり、一時期は GM, FORD 両社の AT に使用できる「DEXRON/MERCON」が主流でしたが、近年では再びGMとFORDは別のフルードになっています。この両社の承認を得たオイルには、必ず「承認番号」が表示されていますので確認することができます。
各オイルメーカーが「DEXRON/MERCON」の品名表示をするには、GM と FORD 社に対し申請書を提出し、製品の品質を証明しなければなりません。これには、品質をパスすることはもちろん、申請費用と年間商標使用料金も必要となります。
ATF はエンジンオイルとして使用することはできません。一般的な ATF は鮮やかな「赤」に着色されいます。オイル点検の時には、量と同時に「オイルの色」も確認してください。「赤」からだんだんと「黒ずんで」きますので交換の目安とすることができます。
A. ATF (Automatic Transmisson Fluid) に使用される名称です。
「DEXRON」とは(デクスロンと読む)世界最大の自動車メーカー、ゼネラルモータース(GM)の所有するブランドで、GM社の登録商標です。
「MERCON」は(マーコンと読む) Ford 社の持つATFのブランドで、Ford社の承認を得たオイルにのみ使用が許されています。
ATFに DEXRON / MERCON の名称を付記するには GM と FORD両社の承認を得なければなりません。承認を得たオイルには DEXRON / MERCON の名称を使用することと、承認番号を容器やカタログに表示することが可能です。承認を受けるには厳しい評価試験に合格しなければならないのは、いうまでもありません。また、ブランド使用認可料(初回のみ)と年間ブランド使用費用も発生します。
GMのDEXRON は時代の変遷にともに、下記のとおり名称が変更、品質や性能も進化しています。
「DEXRON」 → 「DEXRON II」 → 「DEXRON II-D」 → 「DEXRON II-E」 → 「DEXRON III-F」→「DEXRON III-G」→ 「DEXRON III-H」→ 「DEXRON VI」
現在、最高品質を有しているのは「DEXRON VI」です。
「DEXRON」は時代変遷とともに性能も進化、高性能になっています。改善項目は下記のとおりです。
この DEXRON / MERCON は GM 車と FORD 車の両方に使用することが可能です。しかし、旧式の FORD 車の場合は「Type F」を指定している場合がありますので注意してください。
A. FORD 社の認定する新しい ATF の名称で、「マーコンファイブ」と読みます。
この ATF の規格は 1996年2月に正式に発表され、1997年から生産される FORD 社のトラック、バン、スポーティーカーの一部の新車から採用されることになりました。’97 年に採用された車種は「リンカーン Mk.8」「タウンカー・エコノライン」「エクスプローラー」の3車種で、98 年からは「モンデオ GT」「トーラスワゴン」「エクスプロラーXLT」「マスタングコブラ」「ギャラクシー」「コンチネンタル」と採用車種が拡大しています。
「MERCON V」の承認を取るには次の厳しい項目をパスしなければなりません。
これ以外にも厳しい試験項目は山ほどあります。(あまりに専門的になるため省きます)
この新しいフルードは従来の車には使用できません。「MERCON V」を指定された車の専用油となります。
米国内でもこのフルードを生産しているオイルメーカーも少なく、100,000 Mile 以上無交換としているところからアフターマーケットでの交換需要もまったく期待できませんでしたが、最近になり、我が国のオイルメーカーから「MERCON V」にも対応できるフルードが発売されてきました。
Ford 車のユーザーで、もし「MERCON V」が指定されていた場合は充分注意してください。
アフターマーケットにこのフルードは皆無と解釈して、もしも AT機構に不具合が出た場合は必ずディーラーに車を持ち込んでください。また、160,000 Km 以上無交換ですから、ATF 交換も必要ないはずです。
我が国で販売されている ATF をご使用の場合は「MERCON V」に対応できるか? オイルメーカーに問い合わせると良いでしょう。
A. ATにもエンジンオイルを点検するのと同じようなレベルゲージが付いています。ゲージの場所や点検方法は車についている取扱い説明書に必ず記載されていますので確認してください。後輪駆動車の場合はエンジンの後方に、FF車の場合はエンジン側方にあるのが普通です。
どちらの場合でも、基準のラインより下回っている場合には補充が必要ですので、整備工場などに相談すると良いでしょう。
ATF はエンジンオイルと違って「補充」の必要がほとんどありません。また、使用しているミッション形式によってはメーカー純正油でないと本来の性能を発揮できない場合もありますので注意してください。
原則としてATF は減ることはありません。エンジンオイルのように使用中に燃えたり、蒸発することがないからです。もし、ATF が減っていたら、オイル漏れ等の原因が考えられますので修理や対策が必要になります。
ATF は走行距離を重ねるほどしだいにオイルが劣化します。つまり、初期性能が発揮できなくなりますので、オイル量の点検をすると同時に「色」の確認をすることも習慣にしてください。
透明赤色 → 黒ずんだ赤(少し透明感あり) → 黒(透明感なし)
このように色の変化が起こります。オイルが黒く透明感を失っていたらそろそろ ATF の交換時期です。
レベルゲージを差し込む時にはゴミや水を入れないようにしてください。 AT 本体は超精密機械ですので、ゴミや水分は大敵です。使用するウエスもケバだちのない良質の物を選んでください。
A. ATFもオイルです。オイルは使用すればするほど劣化して初期性能を維持できなくなりますので、やはり交換は必要になってきます。昔の AT 車の取扱い説明書を見ても ATF の交換については触れられていない場合が多く、車両メーカー自身も8万~ 10 万キロでの交換を想定していましたが、最近の AT 車では「2年または2万キロで交換」などと書かれている場合が普通です。
ATF はギヤーオイルの一種ですので、エンジンオイルと比較すればはるかに劣化に対する条件は厳しくありませんので、2年程度の長期の使用が可能です。実際の使用に際して、新車の場合ならば1回目の車検時(3年後)に交換を依頼しても良いでしょう。ただし、走行距離の多い車はやはりメーカーの指定する交換基準を守ってください。
オイルの劣化は徐々に進みます。したがって、体感できるほど車の性能が変化することはありません。ATF が傷んでくるとだんだんと次の症状があらわれてきます。
こんな症状があらわれたら、そろそろオイル交換の時期と考えてください。
ATF は常に高温にさらされています。トルクコンバーター内部ではエンジン動力をミッションに伝えるため激しくオイルがかき回されています。エンジンから発生した熱を受けると同時に自らかき回されることにより熱を発生します。したがって、AT にはオイルを高温から守るために「オイルクーラー」が装着されてます。
オイルはあまりに高い温度にさらされると「熱劣化」や「熱分解」を起こしますので、やはり交換することが必要となってくるわけです。
AT機構はたいへん複雑な構造をしておりますのでご自分での ATF 交換はお奨めできません。信頼できる整備工場やオイル交換専門のショップに作業を依頼してください。最近は「全自動」の ATF チェンジャーも普及しておりますので、交換作業もたいへん簡単に行えるようになって来ました。
A. ATF のオイル交換には、エンジンオイルと違って注意しなければならない事項があります。ATFのミッションケースにもドレインコックがあり、ここからオイルを抜き取ることができます。しかし、オーバーホールなどの場合を除いてドレインからオイル交換することはほとんどありません。ATFのオイル交換には専用のオイルチェンジャーが必要です。今までは「循環式」が主流でしたが、最近では「圧送式」の機種も登場してきました。そして、スタートすれば終了までマイコンがコントロールする「全自動タイプ」が登場しています。
では、簡単に原理を解説します。
オイルレベルゲージ穴にチェンジャーのノズルをさし込み、古いオイルを抜き取り新油を注入する操作を4回程度繰り返してオイル交換を完了します。しかしオイル交換とはいうものの、厳密には古いオイルが完全に抜き取れたわけではなく、新しいオイルがたくさん入ってきた、と考えてください。
ATF のオイルクーラーホースをはずして、文字どおり新油に高い圧力をかけながら古いオイルを押し出す方式です。古いオイルの残る割合は「圧送式」の方が少なく、「循環式」より優れた方式だともいえます。しかし、この場合も全量交換は期待できません。
いずれの場合でもエンジンはかけたまま、アイドリングさせながら交換作業を行います。最近ではSSや、オイル専門ショップでもこれらのチェンジャーを備え付けるようになってきましたので、手軽に ATF の交換ができるようになってきました。
もし仮に、ご自分でおこなった場合はトランスミッション内部にエアーが入り込んだり、ゴミや水の混入も考えられますので、シフトチェンジの油圧作動がスムースに行われなくなり、自動的にシフトをしなかったり、最悪の場合は故障の原因となります。
ATF 交換は専用の機械が開発されて手軽にできるようになりました。ご自分では無理、と考え信頼できるショップやディーラーの整備工場に交換作業を依頼してください。
A. FF車は車の構造上、駆動系がすべてフロント部分に集中しています。エンジン、ミッション、デフが一体になり、エンジンルームに押し込められています。
FR車と決定的に違う部分がミッションとデフが一体で構成されていること。つまり、FR車のようにミッションとデフを違うオイルで潤滑することができないのです。したがって、FF車に使用される ATF はミッションの潤滑を受け持ちながら、デファレンシャル機構も保護する一人二役を演じなければなりません。
仕事が増えればオイルが痛むのはとうぜんです。したがって、FF車の ATF 交換は「早めにしろ」といわれているのです。これは、オイル会社やショップがオイル交換で利益を上げようとする意味とは違います。理論的にFF車のほうがFR車に比べて ATF が過酷に使用されていることを意味しています。加えて、最近の交通渋滞もありますし、真夏はエアコンが回り続けていますので ATF は熱による影響も強く受けることになります。オイルはあまりに高い熱を受け続けると熱に負けて性能が劣化してしまいます。
最近の自動車の主流はFF車です。今後はすべてFF車に移行する、と断言しても良いほどになっています。
FF車を大切に乗り続けようとするオーナードライバーの方は早めの ATF 交換をおすすめします。最近はタイヤショップなどにも ATF 交換機が普及してきましたので、手軽に交換作業ができます。
A. ATF でありながら「DEXRON」とは違うオイルとご理解ください。ただし、どちらも ATF ですのでたいへん似たオイルであることは事実です。
我が国の自動車開発力はめざましく、かつては欧米諸国から学んだ技術をさらに向上させ、技術水準では「世界一」といっても、けっして過言ではありません。エンジンはもちろん、オートマチックトランスミッションの開発にも優れ、高度に制御された「電子制御」を取り入れています。国産車のほとんどは ATF の「DEXRON」で問題なかったのですが、電子制御を取り入れたことにより、DEXRON では不都合が出るようになったのです。
国産車専用 ATF の最大のテーマは「シフトショックの低減」と伝達トルクを高く維持して燃費を低減。自動的にシフトチェンジをするときのショックをほとんど乗員に感じさせないほどまでになりました。つまり、DEXRON では多少のショックがあったのです。
簡単に解説しますと「シフトチェンジの時に、よりクラッチを滑らせるオイル」となります。専門的には「摩擦特性の改善」がなされました。
参考までに「DEXRON III/MERCON」では対応できない車両メーカー純正油を列挙します。
これらが指定された ATF 交換には純正油またはオイルメーカーの「国産車用」で対応してください。
純正油以外にもオイルメーカーから「国産車用」の ATF が発売されていますので、カタログで確認したり、オイルメーカーに問い合わせをすると良いでしょう。なお、トヨタは 1997 年式の新型センチュリーよりトヨタ純正 ATF「T-Ⅳ」の採用を開始し、順次このフルードに統一する予定です。また、最近ではT-Ⅳ の低温特性を改良した 「WS」 を高級車に採用しています。
これらの ATF は DEXRON を指定している車にも使用可能ですから、メーカーによっては「ユニバーサルタイプ」と表現している場合もあります。
国産車対応 ATF と呼ばれてもすべての AT 車に使えるわけではありません。AT 機構そのものが違う「CVT」にはいまだにメーカー純正油または「CVT 対応フルード」が必要です。
また、国産車対応の ATF が指定されている車に DEXRON にて交換した場合、すぐに故障してしまうことはありませんが、5000 Km 走行後から「ジャダー」が発生する場合もありますので注意が必要です。
A. まったく問題ありません。
DEXRON は時代の変遷にともに、下記のとおり性能の向上を果たし、名称が変更になっています。
「DEXRON」→「DEXRON II」→「DEXRON II-D」→「DEXRON II-E」→「DEXRON III」
最高品質を有しているのは「DEXRON III」で、名称が変化すると同時に品質の向上がはかられています。これは自動車に使用される AT 本体の発達とともに使用される ATF も進歩を遂げてきた、というわけです。
したがって、「DEXRON III」はそれ以前の古い規格のオイル「DEXRON II」や「DEXRON II-D」を指定している車に交換してもまったく心配ありません。
しかし、一部の外車(MERCEDES BENZ 等)では「旧 DEXRON II-D」を使用しないと不都合が出る場合もありますので注意が必要です。
交換については専門の技術も必要ですので、信頼できるショップに依頼するのが懸命です。
古いタイプのオイルを最新式のオイルに交換するのは心配ありませんが、この反対に「DEXRON III」を指定されているのに、古いタイプのオイルと交換することは好ましくありません。AT 自体が故障したり破損の心配はありませんが、シフトフィーリングが変化したり、シフトショックなどが大きくなったりしますので注意してください。
A. モーターオイルが進歩を遂げ、高性能オイルは合成油に移行しましたので、石油各社からも合成の ATF が発売されるようになりました。ATFは GMとFORD の持つブランド「DEXRON/MERCON」が一般的ですけれど、あるメーカーの合成 ATFは承認を得られておりませんし、GM、FORD両社も積極的に合成油を承認する意向はないようです。その理由は、両社とも現行の「DEXRON III/MERCON」を上限の性能と判断しており、さらに高性能なATFは必要ない、と考えているからです。なぜなら、合成油がAT機構内部に採用されている様々な素材に与える長期間の影響も明らかになっていないのが現状です。
湿式クラッチや湿式ブレーキに使用される摩擦材や、プラスティック類やゴム部品にアタックする影響がまだ解明されていません。
一見するとGM、FORDの承認がないので、品質の悪いオイルと解釈されがちですが、合成油は鉱油より優れた特徴を多く有していますので、信頼できる有名メーカーの製品なら安心して使用することが可能です。販売される価格は合成油の方が鉱油に比べはるかに高いのが普通です。
合成油のATFはまだ多くのメーカーから販売されているわけではありませんし、同時にATFの主流にもなっていませんので、特殊オイルの一種といっても良いでしょう。
合成油の ATF には下記の特徴があります
合成のATFが主流になるには、GM、FORD両社の意向とさらに高性能なATが出現すれば可能性はあります。今後の自動車技術の進歩と動向を見つめる必要があるでしょう。一部のオイルメーカーからGMやFORDの承認を得た合成ATFの販売も開始されました。
A. ATFのオイルクーラーは見えないところに隠れていますのでたいへんわかりづらいのが普通です。一般的な車のATFクーラーはラジエターの下部の中に潜んでいますので、外部から見つけることができないのです。
エンジンオイルのクーラーは空冷式が多く、小型のラジエターのようにも見えますし、風の良くあたるところに設置しますのでわかりやすいのですが、ATFクーラーはほとんどが水冷式です。クーラー本体は細長い筒状になっており、ラジエターの下部タンク内に隠れています。ATFの温度は常に水温より高いために、ATFの熱を水で奪って冷却しているのです。実際には水で冷やしているのではなく「お湯」で熱を奪っていると考えてください。
反対に、ATFが冷えている時は冷却水の温度で早くフルードを暖めることもできるわけです。水冷式を採用した理由は「ATFの温度が安定」するから。冷却性能は空冷式の方が優れている、ともいえますが、ATFを空冷方式でどんどん冷やすと温度変化が大きすぎて弊害が多くなるからです。ATF クーラーを確認するには、一度ご自分の車の下を見てください。
AT本体からは必ず2本の金属製オイルホース(太さはボールペン程度)がラジエタータンクの下部につながっているはずです。2本のホースがあるのは IN と OUT の関係です。したがって、ATFクーラー本体は見えないはずです。
しかし、車種によってはクーラー自体が別体になっている場合もありますが、この場合もただの細長い筒になっており、とてもオイルクーラーとは思えません。
圧送式のATFチェンジャーはこのオイルホースの一部をはずして交換作業をします。これにはジョイントをはずしたり、作業後に再び接続したりと複雑な作業を伴いますので、経験豊富なショップや整備工場に任せるほうが無難です。もし、ジョイント部分の締め忘れなどがあった場合には高い圧力の ATF が漏れ出し、走行不能になりますので注意が必要です。
A. CVTには専用のオイルが指定されていますので、一般に市販されているATFは使用できません。CVTとは「Continuously Variable Transmission」の略で、別名を「無段変速機」と呼ばれ、すでに高効率のATとして注目を集めています。以下、ベルト式CVTについて解説します。
発売当初のCVTにはトルクコンバーターがなく、従来のATとは機械そのものの構造もまったく異なるものです。CVTの試作段階では一般のATF(DEXRON)を使用していたようですが、根本的な構造上の違いから専用油が開発され、指定されるようになりました。
CVTのオイル交換は「メーカー純正油」または「CVT 使用可能」と明記されたATFを必ず使用してください。CVT専用オイルは一般のATFの基本性能をそのままに、摩擦特性に変化を持たせた「改良油」だということができます。
CVT オイルは「金属ベルトとプーリーの潤滑」、「プーリーの直径を変化させる油圧作動」を大きな役目としています。ベルトとプーリー間の伝達ロス(すべってしまう)を少なくするために摩擦特性の改善がなされたのです。この間のすべりが多いと発熱、最悪の場合は焼付となりますので、ベルトとプーリー間は滑らないことを理想としますが若干の滑りは発生しています。
CVT自体は実用化がなされてから歴史も浅く、車両メーカー各社各様の思想もオイルに繁栄されていますので、純正油がやはりベストマッチングするわけです。しかし、最近はオイルメーカー各社からCVTにも対応できるフルードが発売されています。
DEXRON が「II-E」から「III」に移行されたとき、一部のオイルメーカーではCVTにも「使用可能」との宣伝もしているようですけれど、実際には「使える程度」とお考えになった方が賢明です。
今後、CVTはATの主流になる可能性を持った優れた伝達・変速技術ですので、今後の自動車メーカーの動向などを見つめる必要があるでしょう。
ベルト式CVTは現代の最新自動車技術をもってしても、小排気量(1500cc ~ 2000cc程度)の車にしか使用できませんでしたが、日産は3,500ccまでCVT車を発売しています。
A.「ハイパーCVT」とは日産自動車が銘々した新しい機構のCVTで、97年9月に新発売されました。交換には「日産純正NS-1」またはハイパー対応フルードを必ずご使用ください。車に付いてくる「取扱説明書」内には「3年以内または50,000Km以内」でのATF交換は不要、と記載されていますので、HYPER-CVT搭載車のATF交換は一般的な多段式AT車とは別物と考えてください。
いままでの「マーチ」に搭載していた「NCVT」を改良、排気量アップにも耐えられるようにCVT本体の強度もアップしています。ハイパーCVTを搭載している車種は「BLUEBIRD」「PRIMERA」「CAMINO WAGON」「AVENIR」でしたが、日産は続々と搭載車種を増やしています。
CVT機構そのものの大きな変更はなく、スチールベルトの強化とベルトをより強い力でプーリーがはさみ込むよう、高油圧制御を取り入れています。つまり、エンジンの高トルクに対応するため、ベルトが滑らないようにしているのです。NCVTと大きな違いは電磁クラッチを廃止して「トルクコンバーター」を導入したこと。トルコンがあることにより、一般的なAT車と同じようなクリープ現象(アイドリングでも車が動く)を発生させています。
トルクコンバーター内部には最近流行のロックアップ機構が採用されており、20Km程度の低速度からロックアップが作動して、よりダイレクト感のある運転感覚を実現しています。
我が国のオイルメーカー各社から「CVT対応フルード」の販売も始まりましたが、ハイパーCVTへの適合を確認することをお奨めします。
ATF では圧倒的な市場占有率を誇る「DEXRON III/MERCON」は完全適合は無理と判断してください。
ハイパーCVTに適合しないフルードを使用した場合、次のトラブルが懸念されます。
ハイパーCVTを搭載している車にはリヤのカーバッジによりはっきりと判別できます。
A. 日産の持つ「ハイパーCVT」の進化版が「エクストロニックCVT」です。作動原理と機構はハイパーと酷似していますが、大排気量車にも対応するために部品素材の見直しや強度も高められています。
まず、3500ccの「ティアナ」に搭載され、大排気量車のベルト式CVTの先陣を切りました。日産はこの「エクストロニックCVT」専用に純正油として下記のフルードを指定しています。
日産純正「フルードNS-2」
従って、フルード交換には必ず「日産純正NS-2」または、NS-2対応のフルードを使用してください。現在市販されている各オイルメーカーの「CVT対応フルード」で交換することはお奨めできません。
参考までに、日産は「エクストロニックCVT」を今後の主流のAT機構にする、と考えているようです。平成15年(モデルチェンジ)には次の車両にエクストロニックが搭載され、順次車種も追加される見込みです。
大排気量車の「ベルト式CVT」が登場したことで、外国車を含め今後の開発競争が注目されます。CVT車のメリットは「燃費向上」です。省資源(環境問題)をテーマに大排気量車への普及が目の前に迫っている、と予想します。
A. いすゞの開発した「NAVI-5」はトルクコンバーターを使用しないATのため、通常のATFは使用できません。トランスミッションはマニュアルシフトの5速を使用していますので、オイルはマニュアルミッション用のギヤーオイルとなります。「NAVI-5」はいすゞ自動車が1984年に開発したもので、当時の「アスカ」に搭載して世に問いました。「NAVI-5」とは New Advanced Vehicle with Intelligence-5 の略で、5は前進5段の意味です。
作動の原理は通常のミッションとクラッチを、発進と変速をマイコンで制御された油圧でコントロールします。シフトのタイミングはベテランドライバーのパターンをコンピューターに記憶させたものが使用されました。
その後いすゞはさらに進化した「NAVI-5・D4」を1988年に発表し、シフトレンジには下記のパターンがあります。
1 ・・・・・・ 1速固定
2 ・・・・・・ 2速固定
D3 ・・・・・・ 1から3速までの自動運転
D4 ・・・・・・ 1から4速までの自動運転
D5 ・・・・・・ 1から5速までの自動運転
R ・・・・・・ リバース(バック専用)
「NAVI-5」は発表当初業界でも注目を集めましたが、新ATシステムの主流になることもできず、しだいに忘れ去られてしまいました。すでに同社はRVを除く乗用車の販売を中止しましたので、今後の発展的な開発も望めないでしょう。なお、このシステムは一部の乗り合いバスなどにも採用されていますが、近年は大型トラックのAT車がこのシステムを採用し始めましたので、M/Tを完全自動化した自動車の登場は目前に迫っています。また、VWは乗用車のAT化にこのシステムを導入しています。
A. 現代の高度に電子制御されたAT車には「ロックアップ」機構が広く採用されています。開発当初のものは「4速」や「オーバードライブ」だけに付いていましたが、その後一部の高級車には「全段ロックアップ」(別名、フレックスロックアップ)機構が導入され、1速からすべてのギヤーにロックアップが作動するようになっています。
ロックアップ機構の目的は「燃費の向上」。
AT機構には「トルクコンバーター」(流体伝達機構)があり、エンジンの回転数に対して、常にミッション側は数パーセント少ない回転になってしまいます。つまり、オイル(ATF)で動力を間接的に伝えているために常に「伝達ロス」が発生しています。このために、AT車はマニュアルミッション車に比べて「燃費が悪い」と言われるのです。
この燃費を改善するために、ある条件が整うと「ロックアップクラッチ」が作動してマニュアルミッション車と同じようにクラッチをつないでエンジン動力を100%伝達します。つまり、トルコンは作動していてもそれを無視してエンジンとミッションをロックアップクラッチで直結にしているわけです。
ロックアップの作動はすべて自動で行われていますので、良く注意しないと気が付きません。もし、ご自分の AT車に「タコメーター」が付いていれば、次のような場面でロックアップのON-OFFが確認できますので、一度注意して観察してください。
高速道路を巡航中に(アクセル一定で走っている)、軽くアクセルを戻し、再び元の位置に踏み込んだ時など、踏み込んだ瞬間はエンジン回転が上昇しますが、数秒後に回転が200~300回転落ちます。この、回転が落ちた瞬間にロックアップが作動したのです。
現代の車にロックアップ機構はどんどん採用されていますので、ご自分の車のカタログを良く注意して読んでください。ロックアップ機構を搭載しているミッションには必ずこのことが記載されています。ロックアップクラッチはトルクコンバーター内部に組み込まれていますので、ウエットクラッチ(湿式)の一種です。クラッチを保護するのはATFの重要な役目にもなっています。
エンジンが低回転(1500rpm以下)の時にはロックアップが作動していても50rpm 程度わずかにスリップさせていますので、ATFにはジャダー防止性能も要求されてきました。わずかにスリップさせるのは、低速時におけるアクセレーターのオンオフ時に発生するエンジントルク変動を吸収して、不快な振動を乗員に感じさせないように高度に制御しているからです。(専門的にはスリップ制御という)
資源保護を目的に今後も燃費の向上を目指すのはカーメーカーに課せられた大きなテーマとなるため、今後も様々な燃費改善の機構が動力伝達機構にも取り入れられることでしょう。
A. 自動車技術が高度に発展すると同時にATFも多くの変化を経験して今日に至っています。ATF の規格に大きな影響を与えたのは米国最大の自動車メーカー「GM」で、Ford社も独自のコンセプトでATFを定めていました。
下記の表を参考にしてください。
年 | GM | Ford | 摘要 |
1949 | Type A | ||
1957 | Type A SuffixA | ||
1959 | M2C 33 A/B | ||
1961 | M2C 33 C/D | ||
1967 | DEXRON | M2C 33 E/F | |
1972 | M2C 33 G | ||
1973 | DEXRON-II | ||
1978 | M2C 138CJ | Ford社DEXRONの規格に近づく | |
1981 | M2C 166H | ||
1987 | MERCON | DEXRONとMERCONの規格が類似 | |
1992 | DEXRON-IIE | ||
1993 | DEXRON-III(F NUMBER) | ||
1997 | MERCON Ⅴ | 1997年式Fordの一部車両用 | |
1998 | DEXRON-III(G NUMBER) | ||
2003 | DEXRON-III(H NUMBER) | MERCON SP | |
2005 | DEXRON-VI(H NUMBER) | MERCON C |
このようにたびたび両社の名称が変更になっています。同時にATFに対する品質要求も厳しくなっており、規格が変わるたびにATFも高性能化されました。
今後はATFのロングライフ性(無交換)を設計思想に取り入れ、「低温特性」の改良(超低温でもオイルが硬くならない)や、「高温特性」の改善(熱ダレの防止)、「摩擦特性の安定化」などをテーマに開発が進められると予想されます。
A. 自動車技術の発展とともにATFも進化を果たしてまいりました。しかし、より高性能のATFをカーメーカーは望んでいますので、現在判明している範囲で解説します。
世界最大の自動車メーカーGMはATFの代名詞ともいうべき「DEXRON」を所有していますが、現在の「III」よりさらに優れたATF構想を持っています。オイルの特性を要約しますと。
GMはこれらのテーマを1995年3月からスタートさせましたが、規格の変更もあったことから2002年を目標に作業を進めていましたが、2003年から新しいDEXRON(III-H)が登場しました。2005年にはさらに高性能なDEXRON-VIに進化しています。
Ford社も同様の構想を持っており、「BEST IN THE WORLD」を打出しました。このオイルはDEXRON Ⅳとは異なる方向性を示しておりますので、Ford社の規格をクリアーするには合成油の助けを借りて「半合成」になるかも知れません。FordはGMと同様にやはり「低粘度」のATFを考えています。
一方、いままでATFの規格を独自に定めていなかったChlyslerも2000年には独自の認証システムを取り入れると発表しました。つまり、GMとFord社のような自社のATFブランドを持つわけです。
以前はGM、Fordと別々のATFが現在の「DEXRON-III/ MERCON」に統一されましたが、各社の要求性能を細かく点検しますと、ふたたび別々の道を歩むことになりました。いずれにしてもATFの将来展望は「地球環境保護」をテーマにして下記のようになります。
省燃費 ・・・・・ ATFの粘度を下げ、オイル自身が抵抗にならないようにする
ロングライフ ・・・・・ ATFのライフを現在の3倍に伸ばし、フルードを無交換にする
AT本体のロングライフ・・・・・ AT機構に使用される様々な素材の再検討
AT本体の小型軽量化と多段化 ・・・・・ 燃費向上
ベルト式CVTへの対応 ・・・・・ ベルト式CVTがやがて世界の主流になる ・・・ ?
AT機構はベルト式CVTが主流となると予想されていますので、多段式用フルードとベルト式CVTフルードはそれぞれ別のオイルとなる見込みです。
A. 現在のCVT(Continuously Variable Transmission)機構に比べて最も優れた方式の変速機構で、現在実用化されているベルト式CVTに替わる「無段変速機」として期待されています。
トロイダルCVTは長期に渡る実験段階を経て1999年秋に日産自動車が3.0Lの「VQ エンジン+ターボ」搭載の「セドリック・グロリア」シリーズに「トロイダルCVT」を組み合わせて発売しました。これは世界初の試みで、日産は独自に「エクストロイドCVT」と名付けました。メカニズムは、ベルトの代わりに円盤型の「コマ」を使用して、出力側(エンジン)と入力側(駆動系)の直径を連続的に変化させる機構です。このことを「トラクションドライブ」と呼びます。
コマと出力側及び入力側の各接触面にはオイルが潤滑機能を発揮して金属を保護します。しかし、ただのオイルでは「スベリ」が発生して伝達効率は良くありません。そこで考え出されたのが「圧力を受けると硬くなるオイル」、つまりオイルが潤滑面にクサビ状に入り込むことにより、円滑な動力伝達をします。このオイルは別名「トラクションフルード」と呼ばれます。
このオイルは次から次へと新しいオイルに置き替わり、役目を終えたオイル(硬くなっていた)は圧力がなくなることにより、元の流動性を回復します。このオイルはATFの一種に分類されると思われますが、トルコン式ATFと決定的に違う面があります。
このトロイダルCVTは大排気量エンジンにも対応できるところから、大型の乗用車はもちろん、トラックやバスまでの拡大が可能です。しかし、トランスミッション自体が大きく重い、専用フルードが極めて高価である、などの理由により一般的に広く採用されるには、まだ多くの時間がかかりそうです。