A. ごく普通の車の油圧式パワーステアリングにはATFが使用されています。事実、メーカー指定のパワステオイルがATFである場合が多いのです。しかし、最近の高度に電子制御されたパワステには注意する必要がありますので、メーカーに確認するのがベストでしょう。
パワステの原理はエンジンから得た動力でオイルポンプ(ベーンポンプ)を回し、高圧の油圧を発生させてステアリング機構に補助動力を供給しています。したがって、オイルの仕事は「油圧作動」ですので、正式には「パワーステアリングフルード」と呼びます。フルードとは動力伝達を司る液体全般のことを指します。
ATFは寒冷時でも「オイルが固くならず」、高温になっても「オイルがサラサラになりにくい」性質を持っていますので、パワステフルードとしてたいへん都合の良いオイルとなっているわけです。参考までに、一般的な ATFはエンジンオイルの粘度「SAE 5W」に相当します。
ここで、パワステフルードに要求される性能を列挙します。
車両メーカーはその車に使用するオイルの数をあまり増やしたくありませんので、ATFをパワステオイルとして使用する場合が多いのです。これは入手性が良いことと、ATFにもパワーステアリングポンプの摩耗試験が加えられていることからも判断できます。
通常のATFには「赤」の着色がされていますので、パワステオイルのタンクに入っているオイルが「赤」であれば、ほとんどの場合ATFと判断して良いでしょう。ただし、着色をしていないフルードもありますので、一概に色で判断できるものではありません。
最近のパワステには「油圧」を使用しない「電動式」(モーターを使用する)もありますので、すべてのパワステにATFが使用されるわけではありません。ご自分の車のパワステ機構を一度チェックしてください。
A. 最近の車はほとんどパワーステアリングが装着されている、と言ってもけっして過言ではありません。パワーステアリングはエンジン動力による力でポンプを回し、高い油圧を発生させてステアリング機構に補助動力を伝達しています。
ところが、激しいステアリングの切り返しを行うとポンプの能力が不足して、一瞬「パワー無し」の状態が発生してしまいます。
さらに、このような動きが連続で行われるとパワステオイルの温度が異常に上昇し、粘度低下を起こすばかりでなく、激しい泡立ちが起きてしまいます。オイルの中に泡があると圧力が奪われ動力伝達がスムースに行われなくなってしまいます。これは、ブレーキ系で発生する「ベーパーロック」と同じです。市販車ベースで行われるジムカーナなどでは、しばしば起こる現象です。
一般的にパワステフルードにはATFが使用されていますが、「スポーツタイプ」のパワステフルードは応答性をより向上させた品質設計をしています。具体的には下記のとおりです。
エンジンオイルにもさかんに使用されている合成油は低温時に固くならず、高温下にさらされてもオイルがサラサラになりにくい性質を有していますので、高性能のスポーツフルードにも使いやすい特性を持っています。熱に強ければ、パワステタンク内でオイルが「沸き立つ」ことも少なくなるはずです。
しかし、車によっては設計上冷却性能の悪い車もありますので、合成油で作られたスポーツタイプのフルードを使用しても沸き立ってしまうことはあるのです。この場合には、パワステのポンプ付近に走行風が良く当たるように改造を施したり、パワステ系のオイルライン(金属のパイプやゴムホース)に断熱材を巻く、などの対策が必要です。
もし、スポーツタイプのパワステフルードを使用しても改善されなかった場合には、全合成のATFを使用してみてください。合成のATFは石油元売や一部のオイル専門メーカーが発売していますので試すことが容易です。いろいろなメーカーのオイルを試しても改善されない場合には、タンク容量を増やすなどの大掛かりな改造が必要です。ポイントはポンプまわりを良く冷やすことと、オイルラインの断熱です。
A. 最近になり、オイル交換器機製造メーカーが「パワステオイル交換機」を販売しています。現在のところ、パワステフルードの交換基準を明確に示している車両メーカーはありません。ご自分の車に付いている「取扱説明書」をご覧になっても交換のことには触れていないはずです。したがって、パワステフルードは交換不要、つまり「無交換」でした。
しかし、交換需要をオイルメーカーや交換器機メーカーが喚起したことにより、徐々に交換する機会が増えているのは事実です。オイルは使用すればするほど初期の性能を発揮する力が弱くなります。つまり、性能の劣化が起きるわけです。パワステフルードも高温にさらされたり、激しいステアリングの切り替えしに酷使されればオイルが痛むのは当然のことなのです。
フルードを新しいものと交換することは機構(パワステポンプなど)の保護にもなり、精神衛生上も好ましいことといえますので、車を大切にする方にはお薦めします。交換についてはそれほど難しいことはありませんが、フルードを用意したりしなければなりませんので、定期点検や車検整備の時などに修理工場に依頼すると良いでしょう。
最近の大型カーショップではATF交換とパックでパワステフルードの交換キャンペーンを実施している場合もありますので、このような機会に交換する方法もあります。
A. 最近になり「パワステフルード交換」が新しいオイル交換ビジネスとして登場しつつあります。しかし、車両メーカーは明確なるフルードの交換基準を設けていないのが現状です。
このニュービジネスはATF交換の需要が安定期に入ったこともあり、オイルメーカーと交換器機メーカーが新たな需要を喚起した、ともいえます。
では、交換方法の一例を紹介します。
これで作業が完了します。エンジンをかけたまま作業を行うのはパワステポンプを作動させ、フルードで満たされているステアリングラック内のオイルをタンク内に戻すことの意味があります。
以上の作業をしても、全量古いオイルが抜き取れたわけではありません。古いオイルの中に多量の新しいオイルが入ってきた、と考えてください。もし、気になるようでしたら再度この作業を繰り返せば古いフルードをより少なくすることができます。
パワステフルードを全量入れ替えてもそれほど量は多くありません。小型車で約1リットル、中大型車でも2リットル程度です。車両メーカーがパワステフルードの交換を推奨していなくても、メンテナンスの観点から判断すればフルード交換は必要です。長期間の使用で痛んだフルードをリフレッシュすればトラブル発生の機会も減るはずです。
パワステタンク内のフルード交換だけ実施してもあまり意味はありません。フルードはタンク内だけでなく配管内やステアリングラック内にも充満しているからです。必ずエンジンをかけた状態で上記の作業を行ってください。
A. 最近になり「パワステフルード交換」が新しいビジネスとして登場しつつありますが、近くにショップがなかったり、簡単な作業なのでご自分で交換をしたい、と考えている方に次のようにアドバイスします。
以上で作業が完了しますが、エンジンオイルの交換と違って古いフルードを完全に抜き取ることはできません。これは、車両メーカーがフルードの交換をまったく考慮していないからで、ドレインプラグも付いていないからです。したがって、古いフルードの中に大量の新しいフルードが入ってきた、と考えてください
その他の注意事項としては、
パワステ機構の油圧パイプをはずしてのフルード交換作業は絶対にしないでください。ステアリング機構は「重要保安部品」の一つであり、もし締め付けに問題があった場合は走行中にフルードが漏れ、まったくステアリングを切ることができない(実際にはものすごく重くなる)状況になりますので、重大事故発生にもつながりたいへん危険です。
A. パワーステアリング機構の歴史は古く1925年に米国で初めて「Oldsmobile」に搭載されました。その後、1965年には乗用車の一般車両にも採用されています。発祥の地は安楽な運転を好むアメリカ。重いステアリング操作を改善するのに大きく貢献し、今では世界的規模で標準装備されるほどの普及率となっています。
パワステ機構はエンジンから得られた動力でポンプを回し、高圧の油圧を発生させてステアリング機構に補助動力を伝えています。これため、別名を「パワーアシスト」とも呼びます。動力を伝達する役目はフルード(オイル)で、一般的にはATFが使用されています。
メカニズムの種類としては、「ラックアンドピニオン」式には「リンケージ・タイプ」が、「ボールナット」式には「インテグラル・タイプ」が採用されています。
ただステアリングが軽ければ良い時代を経て、速度感応式やエンジン回転感応式の機構が組み入れられて一度進歩をしています。これは、低速時(車庫入れ等)にはポンプに大きな仕事をさせてステアリングを軽く回るようにしながら、高速走行の時などは補助動力をカット(ほとんどアシストしない)してステアリングを安定させるために考え出された機構です。
最も進んだ方式は我が国が最も得意とする「電子制御式」。各部のセンサーから得られた情報をもとにコンピューターが高速演算、ポンプに適切な仕事をさせたり、コントロールバルブを制御するものです。今まで登場したパワステ機構で圧倒的多数を占めるのがすでに述べた「油圧式」。一部のトライではエンジン動力でポンプを駆動するのではなく、電動モーターでポンプを回す方式もあります。
次に見られるのは、ポンプ機構を排除してモーターで直接ステアリング機構に動力を伝える機構です。この方式はコンパクトなことから「軽自動車」に多く採用されています。ポンプを回すためにエンジン動力のロスもないため、1800cc程度の中排気量車にも積極的に採用されています。もちろん、これらの新しいパワステ機構には電子制御が大幅に導入されています。
将来展望では、上記のモーター直動式に全面移行することが考えられます。油圧式の場合はオイル漏れが発生したり、ポンプを回すために「Vベルト」を使用していますので、ベルトのメンテナンスもしなければなりません。また、最も進んだ方式はAT機構に使用されている「遊星ギヤー」と電子制御(フライバイワイヤー)を組み合わせた機構で三菱自動車が開発をスタートさせました。
しかし、電動モーターにしてもトラブルフリーというわけではありませんから、メカニズムの信頼性向上と耐久性にポイントが置かれて開発が進むでしょう。参考までに、モータースポーツの分野でもパワステが導入されています。年々グリップの良くなるタイヤ、同時にタイヤも太くなる傾向にありますので、ドライバーはステアリングと格闘しなければなりません。特に耐久レースには必要なアイテムとしてパワーアシストが定着しつつあります。